唇が触れるまであと5cmくらい

息がかかるくらい近い

あたしの心臓は破裂寸前だった

「……やっぱり無理」

あたしはおもいっきり顔を下に下げた

―ガンッ

「…痛っ馬鹿だろ」

「痛ぁい」

その拍子に那智の顎とあたしの頭がぶつかった

「お前…舌かんだ」

「那智がキスしようとするからじゃんか」

あたしは涙目のまま那智を見つめた


「……嫌がっときながら誘ってんの?」

「違っ」

―ちゅっ

まさかの不意打ち
那智の唇があたしの頬にふれた

「なっ…」

またほっぺにキスされた

「やっぱり冴慧はおもしろいな 他の女とは違うよ」

那智は立ち上がった

「なんつか 虐めたくなる」

そのまますたすたと歩きはじめた

「ちょ…置いてかないでよ」

あたしも急いで立ち上がる

もう授業は始まってるな

「俺は保健室行く 『優等生の北条君』だから」

途中で思い出したように振り返った

「こんどはこっちな?」

あたしの口を指さして少し笑った

「……馬鹿」

那智は馬鹿だ

あたしの気持ち
わかってるの?
期待しちゃうじゃん…
那智は面白がってるだけかもだけど

あたしは…

遊びでもいいから
もっと近くにいたい

でも
傷つきたくない
弱虫だから…