絢架は少し躊躇した

でもゆっくりと口を開いた

「泣いてたの」

「え?」

「彼 あの日泣いてたんだよ」

那智が泣いてた?
あの那智が?

「あたしなんでだろうって思ったんだ そんなに辛いなら別れなきゃいいじゃんって 自分の気持ち押し殺すなんて馬鹿みたいだって……
それでもね北条君は冴慧の幸せを優先した」

あたしの頭に那智の顔が浮かぶ

「冴慧の幸せ願って自分の幸せ犠牲にしたんだよ?」

次に陣の顔が浮かぶ

そして波美 蓮君 杏 雅そして美和の顔が浮かんだ

あたし………みんなに守られてる

みんながあたしの幸せを願ってくれてる


「わかるでしょ?冴慧」

「……うん」

「悔しいんだけどあたしもね 冴慧に幸せになってほしいなって思ったんだよね」

「絢架……」

「じゃないとこんなお節介なこと言わないよ?北条君とより戻せなんてさ だってあたし……」

絢架は眩しいくらいの笑顔で言った

「北条君のこと好きなのにさ」



気づくとあたしは走り出していた

絢架に背を向けて体育館から飛び出していた


もう迷いはなかった


絢架の言葉が
なかなか1歩を踏み出せなかったあたしの背中を最後にコツンと押してくれた

もう迷わない

迷わない