あたしは言われた通り顔をあげる
涙に濡れたあたしの顔を見て杏は悲しそうに笑っいた
「やめてよ冴慧 そんなことしないでよ あたしなんかのために泣かないで」
「………。」
黙るあたしに杏は深いため息をついた
「……もっと悪者でいてよ あたしの怒りの矛先でいてよ あたしたちの邪魔ばっかりする最悪な存在でいてよ もっともっと悲劇のヒロインぶってよ」
杏は悲しそうな表情のまま突き刺すような口調で言った
そしてそのまま俯く
「だってあたしは杏のことが大切だもん 杏には幸せになってほしいと思うから……」
「なんで………そんなに余裕でいられんのかな?
冴慧はなんでそんなに人に優しくできる?」
「杏………」
「冴慧がそんなだから あたしは……あたし冴慧のこと………どんなに頑張ったって嫌いになれないよ」
杏は顔をあげた
「この子には幸せになってほしいって思っちゃうよ」
今後は悲しそうな表情じゃなかった
嬉しそうな
ほんの少しだけ嬉しそうな顔で笑っていた
「蓮君………」
杏はあたしから視線を外して斜め前にいた蓮君に呼び掛けた
「あたし今から陣のところ行ってくるね」
「あ……あぁ」
「もう迷惑かけないからさ」