「彩香、何している」
 秀が語気を強めて私の体を無理やり橋の柵から降ろした。
「私、修二のもとに行こうと思って……」
 私は声を震わせながら泣き出しそうな声で言った。
「なんてこと考えるの。修二は、彩香にそんなことを望んで死んでいったんじゃないんだよ?」
 美咲が泣きながらそう言って、私の頬を強く引っ叩いた。
「美咲、私もうどうすれば良いのか分からない」
「さっき修二の分まで生きるって、私は頑張るって約束したばかりじゃない。私たちがついているから、彩香は一人じゃない。だから彩香まで死のうなんて馬鹿なこと考えないで。また私たちに悲しい思いをさせる気なの? 彩香はそこまで弱い人間じゃないよ」
 私は美咲の言葉を聞き終えると、その場にへたりこみ泣き続けた。
「彩香、一緒に帰ろう」
「みんな、心配かけっぱなしでゴメン。皆も辛いはずなのに……」
「彩香はいっぱい苦しんで、泣けばいいんだよ。だって、修二のことを一番に好きだったんだからな」
 美咲と秀は私を包み込むような優しい言葉をかけてくれた。
「それより、何で私がここにいるって分かったの?」
「俺たちが彩香の家に行ったら、日記を持ちながらふらっと家から出っていったっておばさんから教えてもらった。だから、もしかしたらって思ってここら辺を探していたら、たまたま彩香のことを見つけたって感じかな」
「そうなんだ。また皆に助けられちゃったね」
「こういう時こそ助け合いだよ」
 そして私たちは家へと帰っていった。
 私は精神的に不安定だったから、当分大学は休んでいた。美咲たちも私を心配してか、毎日私の家に来てくれていた。
 修二の死から二週間が経った頃、私はようやく修二の死を受け止められるようになっていた。もちろんまだ完全には立ち直れていないけど、少しだけ前を向けれるようになった。
「美咲、明日から大学に行こうと思う。さすがに単位も取れるかどうか危ういし。今まで毎日家に来てくれてありがとう」
「親友として当たり前のことをしてるだけだよ。親友が苦しんでいればその痛みを共有して、逆に喜びも分かち合って。そういうのが親友でしょ?」
 美咲は優しく微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
「ありがとう。これからは絶対バカなことなんて考えない。修二の分まで絶対に幸せになるんだ」