修二は自分の顔の前に手を合わせると、勢いよく食べ始めた。
「どう? 美味しい?」
 私は修二の表情を伺いながら、恐る恐る聞いてみた。
「いつもより格段に美味しい。こんな美味しい料理食べるのは久しぶりだ。病院食はいつも素っ気ない料理ばかりだったからな」
 修二は病院の悪口を言いながら、本当に美味しそうな表情で食べてくれた。
「じゃあ、私もいただきます」
 私も顔の前に手を合わせると、自分で作ったお弁当を一口食べた。
「うん、美味しい。我ながら上出来だな」
「自画自賛かよ」
 修二は冷静なツッコミを入れた。二人は顔を見合わせると、二人して大笑いした。
「まあ、美味しいのは確かだよ。こんな料理が上手いお嫁さんを貰った俺は、この上ない幸せ者だな」
「この先もずっと幸せな日々が続くよ、絶対。修二だったら、絶対病気なんかに負けないって信じてる」
 私がそう言った途端、修二は黙り込んでしまった。しばらくすると、修二は泣き出してしまった。
「俺、もっと生きたかった。何で俺が白血病に罹るんだよ。もっと優人の成長を見たかった。こんな風に彩香と優人と俺の三人で幸せな日々をもっと送りたかった……。俺、まだ死にたくねえよ……」
 修二はそう言って、大きな声を出しながら泣き始めた。私は、修二が泣く姿を初めて目の当たりにした。
「修二だったら絶対大丈夫。私が絶対病気なんか治してみせる。だから、生きる望みを捨てないでよ……」
 私にはそんなことしか言うことがなかった。修二はずっと泣き続け、私は修二のことを抱き寄せた。
「私は絶対修二の傍からいなくならないから、心配しないで。その代わり、修二も私の傍からいなくならないで。私たちが付き合う時に約束してくれたよね?」
「ゴメン。俺が弱気を吐くなんて、俺らしくないな。俺は絶対彩香の傍からいなくならない、約束する」
 修二は涙を拭きながら、私と指切りをしてくれた。
「絶対約束だからね。さあ、早くお弁当食べよう」
「そうだな」私たちは再びお弁当を食べ始めた。
 お弁当を食べ終わる頃には、主治医から言われた二時間を迎えようとしていた。