「秀、やっぱり体調が良くないだけだって。だから心配するなって言われた」
「そうか。修二にだってそういう時もあるよ、あまり気にしたら体が持たないぜ」
 そう言うと、私の肩を軽く叩いてから自分の席に戻っていった。
 修二のことは心配しながらも、受験生にとっては大切な時期だし子育ても大変だから、その二つに打ち込んで修二のことはあまり気にしないようにした。
 数日後、修二は久しぶりに学校に来た。でも、体調は万全ではないように感じた。顔色も悪いし、いつもより覇気がなかった。
「修二、学校に来たのは久しぶりだね」彩香は明るく振る舞った。しかし、修二の対応は素っ気ないものだった。
「ああ、そうだな」低い声で答えた。彩香は自分の席に戻ろうとした時、修二に呼び止められた。
「彩香。放課後、あの河原に先に行っててくれ。話したいことがある」単調な口調でそう言うと、修二は机に顔を伏せてしまった。
 河原に向かうと、修二の姿はまだなかった。携帯をいじりながら修二のことを待っていると、しばらくして修二がやってきた。
「彩香、待ったか?」後ろからそう聞かれた。
 私は後ろを振り向くと、修二の姿があった。「待ってないよ」短く答え、修二は私の横に座った。
「修二、話って何?」不安そうに聞いた。何か嫌な話をされるんじゃないかと一瞬頭を過った。
「彩香、俺たち別れよう」修二は淡々と言った。しかし、私の頭は混乱した。修二と別れるって、信じられなかった。
「え、修二何言ってるの? まだ赤ちゃんもいるのに、私と別れるってどういうことなの?」
「許してくれ、彩香。俺にはもう優人のお父さんでいる資格はない」そう言い残し、修二は立ち去ろうとした。
「待って。優人のお父さんでいる資格がないってどういうこと? もしかして、他に好きな女でも出来たわけ?」
「許してくれ。もう彩香の傍にはいてあげられないんだ」そう言うと、修二の手に掴んでいた私の手を振り落とし、自転車で去ってしまった。
 私の傍にいてあげられないって、優人の父親の資格がないって、修二はどうしてしまったんだろう。私は長い間そこを立ち去ろうとはしなかった。もしかしたら、修二が戻ってくれるかもしれない、そんな淡い期待をしていたが、周りが薄暗くなると河原には誰一人としていなくなってしまった。私もやっと立ち上がり、家へと向かった。