「いえ、俺たちにはこれくらいしか出来ませんから。それに、果物は彩香の大好物ですからね」修二は彩香の方に目をやり、微笑んだ。
 その後は果物を食べながら、他愛のない話をしていた。
 そして面会の時間が終わり、修二たちは帰る準備をし始めた。
「じゃあ、俺らはここで失礼します。明日からも毎日お見舞いに来るつもりなんで」そう言い残し、秀たちは病室を後にした。
 入院中は今まで以上に暇を持て余した。漫画もゲームもないし、携帯も禁止だからテレビを見るくらいしかなかった。それでも、順調に事は運び出産予定日で出産を迎え、しかも自然分娩で赤ちゃんを産むことになった。
「彩香。予定通り出産になって良かったな。バレンタインデーに出産なんて、何かめでたいような気がする」
「修二。皆も来てくれたんだ」修二たちの方を見て微笑んだ。
「当たり前だろ。彼女が出産するっていうのに、それに立ち会わない彼氏なんていないだろ」
「そりゃそうだね」二人は大笑いした。
「多分、いつ陣痛がきてもおかしくないと思う。心の準備はしときなさいって看護師さんに言われた」
「そうか。とうとうこの子も産まれるんだな」修二は彩香のお腹を摩り、微笑みかけた。
 間もなくして彩香は陣痛が始まった。彩香が苦痛で顔を歪めはじめると、看護師が彩香のことを分娩室へと連れていった。修二もその後についていき、彩香の手を握り続けていた。
 やはり、低年齢出産と初産ということもあって長時間を要した。
 十数時間後、看護師が彩香のお腹から出てきた赤ちゃんを取り上げた。それと同時に、赤ちゃんは産声をあげ始めた。
「おめでとうございます。元気な男の子です。彩香さん、赤ちゃんを抱いてあげてください」看護師にそう言われ、彩香は赤ちゃんを抱いた。
「元気に生まれてきてありがとう」彩香はそう言うと、泣き始めてしまった。
「本当に元気な赤ちゃんだな。彩香、良く頑張った」修二も泣き始めた。
 後に医者から聞いた話によると、赤ちゃんは二九八六グラムで正常な赤ちゃんらしい。低年齢出産ということがあって、何かしらの異常を持った赤ちゃんが生まれてくる可能性もあったらしいが、何の異常もない元気な赤ちゃんだったらしい。
 彩香は大事を取って、五日間入院をした。五日後、彩香は退院して赤ちゃんと共に家に帰った。