貴女は僕の運命の人ではありませんでした





トモは俺のその言葉にただ微笑むだけだった。




“私も...”とかを期待していた訳じゃないけど、せめて“貴司、好き...”って言葉はほしかったかも。



・・・行為の最中に“好きって言って...”と言う純の気持ちが少しだけわかった気がした。



でもいいんだ。


まだ俺とトモは始まったばかりだから・・・


今・・・始まったばかりだから・・・














**********




翌朝。


仲居さんに言われた時間に朝食が運ばれてきた。


普段朝飯なんて食わないのに。





「あぁ...マジめちゃ食ったぁ!!やっぱり旅館の朝飯は最高!!」




「うん!美味しいよねぇ~♪...って、そろそろ準備して出ない?行きたいところたくさんあるし!」





「そうだね。9時前には出たいね。んじゃぁ、そろそろ準備しようか」










それからすぐに俺たちは旅館をあとにした。




「梅雨だから雨を心配したけど、晴れてよかったね~!」





「ホントホント!日ごろの行いがいいんだよ♪...っつうか、トモ、いつも以上に可愛いし♪」




「ホント?!貴司に服選んでもらってよかったぁ♪」





「まぁ、トモは何着ても可愛いんだけどね?」





「しょうがないなぁ...あとで100円あげるわ」





「俺はガキかっ?!?!」







・・・そんなやり取りをしてると、車のラジオからあの曲が流れ出した。





「っあ!!あたしこの曲好き!!One more time One more channce...だっけ?
なんかよくわかんないけど泣けそうになるよね...」





「確かに...切ないというか...でもなんとなく気持ちわかるような気がするっていうか...
もし、トモと離れ離れになるようなことがあったら俺もこの歌詞みたいに色んなところにトモを捜してしまうんだろうな...」





「...昨日付き合うって言ったばかりでもう別れる事考えてるんですか...」





トモが少し膨れて俺を見る。


そういうのが安心させてくれるんだ。


俺の事少しでも好きでいてくれてるんだって・・・





「6月28日...」





「うん。」





「俺たちの記念日...」





記念日なんか気にした事がないのに。


トモが相手だとホント乙女チックになるんだよなぁ・・・





俺は前を見たまま、そっと左手でトモの右手を掴む。






「...ずっと一緒に居ようね」






トモのそんな言葉にテンションは一気に上がっていった。

“大人の修学旅行”・・・


京都には小学生の頃の修学旅行以来行っていなくて。


当時は寺とか見て一体何が楽しいんだ・・なんて思っていたけど。


この歳にもなると、なんだかとても“いとおかし”がよくわかるようになっていた。





まず最初に嵐山に。


梅雨時期にもかかわらず、観光客はたくさんいて。


人の流れに逆らわないように、はぐれないように・・・しっかりとトモの手をとった。


それでもトモが人の流れに流されそうになるから、グイっと腰に手を回して引き寄せる。





「...はぐれたらダメだよ?」



そう声を掛けると、「...うん。」とトモも俺にくっついてくる。




・・・ちょっと。


俺の彼女、マジ可愛いんすけど。






・・・そして、やっと渡月橋を渡ろう・・・とした時。



トモが、俺の服の袖をチョイチョイと引っ張った。




「...ん?どした?」




「渡月橋ってさ...カップルで渡る時に振り返っちゃいけないってジンクスあるの知ってる??」




「そうなの?別れる..とか?」




「そうそう。だから...気をつけようね」




・・・トモってば。


ドコまでイチイチ可愛いんだよ・・・





「...トモ。」




「なに?」




「そういうのめちゃくちゃ可愛いんだけど。振り返らないようにしようねって事でしょ?

そんなに俺の事好きなんか...そうかそうか...そんなに俺の事を...」




「...なんなら無理矢理にでも一緒に振り返るけど?」




「はっ?!バ、バカじゃない?!振り返る訳ないじゃん!!」




「プププっ!!貴司、めちゃ面白い!!」




クスクス笑うトモに俺も釣られて笑う。


・・・あぁ。こういうのホント幸せ。


もし、橋を渡ってる最中に振り返ったとしても、俺たちなら絶対に別れたりしないって自信がある。


ジンクスなんかに負けない自信がある。




・・・でも。念のため・・・前しか見ないけど。



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嵐山、西本願寺、壬生寺・・・などを回って、清水寺に。



定番っちゃぁ、定番だけど、清水寺で写真を撮りまくった。


お互いを撮りあってると、「写真撮りましょうか?」と、俺の後ろから同世代くらいのカップルが話しかけてきた。




「あ!お願いします!!」




俺はその彼氏にカメラを渡し、トモの右側に立つ。


さり気なくトモの腰に手を回して、グイっと寄せて密着する。


するとトモも俺に横から抱きつくような感じでくっついてきた。




「ハイ、チーーーーズ」





二枚写真を撮ってもらい、次は俺がこのカップルの写真を撮った。


そのカップルと別れてから、すぐに撮ってもらった写真を確認。




俺に抱きつく笑顔のトモ。


大事そうにトモを引き寄せてる俺。


幸せそうな二人・・・


綺麗な景色・・・




初めてのトモとの写真。




写真を見て、本当に俺たち付き合ってるんだ・・・と実感する。





「ねぇ!貴司!下見てみて!!凄い高いよ!!
ココから飛び降りたらヤバイよね...足すくんできた...」




そんな無邪気なトモが・・・俺は本当に好きなんだ。


絶対に、トモは離さない・・・そう心に決めた。




**********




「眠かったら寝てっていいよ?」




「...うん。だい...じょうぶ...
運転して..もらってて...助手席は寝たら..失礼..だし...」




トモは、絶対に眠いだろうに、俺に気遣って無理して起きてる。


・・・起きてるっていうか、半分寝てるけど。




「サービスエリア入ったら起こすから。それまでは寝てな?」



そう言って頭を撫でると、「...うん。」と、トモは寝落ちした。




助手席で寝てくれるって、男的にはちょっと嬉しかったりする。


安心してくれてるってことだろうし・・・


なんかいいよなぁ・・・こういうの。


好きな人と遠出して、好きな人が助手席で寝てくれてて・・・




“結婚”したら、こういう絵に描いたような幸せが当たり前になるんだろう・・・






“結婚”かぁ・・・



今まで考えた事なかったけど。


トモとなら・・・してもいいな。






スースー・・・と聞こえる、控えめな寝息。


そんな寝息までもが愛しい・・・





このまま帰したくねぇ・・・


彼氏に会わせたくねぇ・・・





サービスエリアで休憩せずにこのまま地元のホテルにチェックインだな。






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「トモ!着いたよ!」






車を駐車場に入れて、寝ているトモを起こす。





「う...ん。もう着いたんだ?
って、え?!?!ドコ?!?!ココ!!」





ありえないくらいの驚きようで思わず笑ってしまう。




「ぷっ...なんでそんなに驚く?ドコってココ、ラブホっすけど?」





「家に送ってくれたんじゃなかったの?!?!
ってか、なんでラブホ?!?!」





「...だって、帰したくなかったし?
トモは帰りたかった?」





俺のその言葉にトモは“はぁ...”と軽くため息をついて言った。





「参りました...」






トモも帰りたくなかったんじゃん。







「あ。でも、貴司はいいの?連泊しちゃって...」





「いいよ、別に。
今日は金曜だからどうせ自宅には帰らない日だし。」





・・・本当は“彼女なんかどうでもいいよ”ってストレートに言いたいけど。





「逆に聞くけど。トモは彼氏...に怒られない?大丈夫?」





「え?あ...うん。大丈夫。」






・・・めちゃ複雑。


俺も“彼氏”になったのにもう一人の彼氏に気を遣うなんて。






「んじゃぁ、今日もお泊りしようね♪
明日は野球だから朝早いけど...」











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さすがに連泊ともなると、トモと夜を過ごすのも少しだけ慣れてきて。


もちろん、変わらずドキドキしっぱなしで、コロコロ変わる表情なんかに可愛い~♪なんて思うし。


でも、こうして一緒にいるのが当たり前かのように錯覚する。


ずっと前から一緒に過ごしてきたような・・・






「...なんか、貴司といるとずっと前から知り合いだったような感じがする。
なんていうか、ずっと付き合ってきてたようっていうか...」





「え?マジ?!今俺も同じ事考えてたし!!」





ドンピシャな事をトモが言ったから、やっぱりトモは俺の運命の人なんだって思う。


考えが同じ、考えるタイミングが同じ・・・って大事だろうし。





「思考回路が同じなのかもね?」





「かもね。だったら、今トモが考えてる事当ててあげようか?」





「うん♪当ててみてよ。」





「...“キスしたい”じゃない?」





「...半分あたり」





照れた顔で俯くってホント反則・・・





「んじゃぁ...後の半分はトモが言ってよ。多分俺と同じ事考えてるから。」





「えぇ?!?!あたしが言うの?!」と一気にトモの顔が赤くなる。




たまにはトモの口から聞きたいじゃん?


そういうの俺的には好きだし・・・





「ほら、早く言ってよ~」





ちょっと意地悪にそう煽ると、






「...エッチしたい...」





可愛くトモは答えた。






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翌日。トモを家まで送り、俺は実家に戻った。



野球の準備をしてから、旅行中ずっとOFFにしていた携帯の電源を入れ、恐ろしいほどのメールの数にため息が出た。



もちろんメールは全て純から。




“もう京都に着いたかな?”


“ご飯は何食べた?”


“浮気しないでよ?!”


“なんで連絡くれないの?”


“なんで電源切ってるの?”


・・・など数十通。





ほとんどをちゃんと読まずに古い順から消去していき、一番新しいメールを開いた時にその手が止まった。





今朝5時丁度・・・



“たかちゃん、お願いだから連絡して。もう死ぬかもしれない・・・”






さすがの俺もこのメールにはビビってすぐに純に電話を入れた。





プルルルルル・・・プルルルルルル・・・プルルルルル・・・





暫くコールし続けたが純は電話に出ることはなかった。






・・・もしかして・・・本気で変な事考えたんじゃないだろうなぁ・・・


・・・いや、純ももう大人なんだし、そんな事するはずがない。


・・・でも。




一瞬にして全身から冷や汗が吹き出るのがわかる。






俺は急いで純がいるであろう自宅に向かった。