私は、仕方がないから、言われた通りに席を立った。

奏ちゃんは、そんな私を見上げ、



「俺はいつだって律にとってのスーパーマンだから。だから、何も心配することはない」


意味深に聞こえたらしいキョウは眉根を寄せる。

わざとらしい言い方で、奏ちゃんは最後までキョウに嫌がらせをしたいのだろう。


私はそんな応酬を見て笑った。



「じゃあ、またね」


席を立った奏ちゃんは、そして先にひとり店を出た。

その背中を、少し睨むような目で見送ったキョウは、また舌打ちを吐き捨てる。


そしてため息混じりに私を見て、



「奏と、何話したの」

「内緒」

「言えよ」

「言わないよ」

「言えって。俺にとっては死ぬほど長い30分だったんだから」

「でも、言わない」


キョウはじっと私を見て、でもついには諦めたように、「ムカつく」と漏らして、肩を落とした。


キョウの気持ちは痛いほどわかるつもりだ。

だけど、私と奏ちゃんのことは、私たちふたりがわかっていればいいことなのだから。



「ごめんね、キョウ」


キョウは答えず、「出よう」と私の手を引いた。


キョウの手は冷たかった。

だからもしかしたら今までずっと、お店の外で待っててくれていたのかもしれないと思った。



私はまた「ごめんね」と言った。