「あとさ、心機一転ついでに、引っ越しもしようと思うんだけど」

「あの部屋、出て行くんだ?」

「ひとりだと広くて困るからさ」


この街に来てからの3年間、あの部屋で、私と奏ちゃんは苦楽を共にした。

思い出は、星の数ほど蘇ってくる。


だから少し、寂しくなった。



「荷物」

「え?」

「律の荷物、どうすればいい? 全部捨てていいって言うなら、そうするけど」

「ダメ!」


思わず制止の声が出た。



「服とかは処分してくれていいよ。でも、お父さんからもらったプラネタリウムだけは、絶対にダメ」

「あぁ、あれね。律の宝物だもんね」

「うん」

「じゃあ、いつでもいいから取りにおいでよ。他にも必要なものだってあるだろうし、俺わかんないから」

「うん。わかった。ありがとう」


奏ちゃんは頷いた後で、「電話して」と付け加えた。


そのタイミングで、再びドアが開いた。

咥え煙草のキョウが入ってくる。



「はい、30分。終了ー」


つかつかと歩いてきて、私と奏ちゃんの間を割るように、テーブルにバンッと手を置く。

奏ちゃんはやれやれと肩をすくめ、ふっと笑いながら、



「細かくて気が短い男は嫌われるよ、キョウ」

「うるさいんだよ、奏。いい加減、喋れなくされてぇか?」

「今度は脅しだ。怖いねぇ」


動じることのない奏ちゃんに、キョウは舌打ちを吐き捨てた。



「帰るぞ、律」