「奏ちゃんは?」

「うん?」

「百花が言ってたの。奏ちゃんがやばいらしいって」


私の言葉に少し考えるような顔をした奏ちゃんは、だけども「あぁ」と思い出したように言って、肩をすくめ、



「仕事のことじゃない? 俺、今はもうナンバーワンじゃないから」

「え?」

「律がいなくなってから、ますます仕事に身が入らなくなってさ。サボったりしてるうちに、ね。まぁ、自業自得ってやつだよ」


奏ちゃんは、悲しむでもなく言った。

だけど私は、途端に心配になった。



「大丈夫なの?」

「いい機会だし、辞めようかなぁ、って思ってたとこ。律にもこうしてまた会えて、自分の中でも一区切りになったし」

「………」

「俺ももう22だしね。いつまでもこんなことやってらんないじゃん。で、よくよく考えてみたら、サラリーマンにでもなるのが一番手堅いかなぁ、って」

「………」

「だってさ、どんなにこの世界ですごいって言われたところで、保障もボーナスもあるサラリーマンのが社会的には上なわけだし。雇われ店長になったって、所詮はこんな世界だもん」

「………」

「ほら、俺、営業マンとか向いてそうじゃない? しかも相手がおばさんとかだったら、向かうところ敵なしって感じじゃんか」

「………」

「だからさ、俺は俺でひとりでも何だかんだでやってけるから、律が心配することじゃない。っていうか、ひとりの方が身軽でいい」


それが、私を安心させるための言葉であるということはわかった。

だから私は頷いた。



「そっか。奏ちゃんだったら、どこで何やっても一番になれるよ、きっと」

「当たり前でしょ」

「うん。私の“お兄ちゃん”はスーパーマンだもんね」


笑って見せたら、奏ちゃんも笑ってくれた。

やっと、奏ちゃんが、私に笑顔を見せてくれた。