時計を一瞥して、寝室へ入った。


部屋に溢れるラベンダーの香り。


ベッドに腰掛けるとまだ少しだけシーツに熱が残っている気がした。


けれども、そのまま疲れた身体をベッドに横たえる。


やっぱりオイルを焚いてもダメだった。


彼の香水の匂い。


花の香り。


彼の汗の匂い。


彼の男の匂い。


シーツからそれは永遠に消えない香りだと思う。


でもそれがとても安心して鼻を埋める様に目を閉じた。



消したいのに、消せない。


嫌な香りの筈なのに安心する。


人の気持ちは嘘と矛盾ばかり。


そう思ってすぐに眠りについた。


眠りに着く前何故だろう。


彼を思い出した。


嫌、彼じゃない。


彼の左薬指に収まったシルバーの指輪を思い出した。


夢は見なかった。


見たくもないけれど。


でも、目が覚めるといつも通りの涙の跡。


それは彼を愛している証。


そんな馬鹿な事を考えて1人失笑してから時計を見れば、時計の針は9時をさしていた。