「愛してるよ、桔梗(ききょう)」


そう言って優しく唇にキスを落とす彼に静かに微笑んだ。


すると、何か言いたげな顔をしながらも小さく微笑む彼。


「じゃあ、またな。」


何も言わない私に向かってそう言って、やけに大きな黒塗りの車に乗り込んだ。


その車が見えなくなるまで見送る。


pm11:00


月が綺麗な宵時に、何人の恋人たちが寄り添っているだろうか。


そう考えると1人で笑ってしまう。


すると車が角を曲がって、暗い路上を照らす光が消えた。

何故だろう。


一瞬の光を失って闇の中、独り取り残された気がするの。


その瞬間だけは胸が痛む。


少しだけ泣きたくなる。


目を閉じ、痛みを堪えると天に届きそうな位高いマンションの中へ入った。