変人呼ばわりされても楓は動じることがない。
 

「馬鹿と天才は紙一重って言うじゃない。んーっ、ご老人達がどーしても邪魔なんだよな。凝り固まったご老人の脳みそは保守思考しかない。だから“共食い”が起き易くなっている。

……真衣ちゃん。
これは僕の憶測であり、単なる杞憂かもしれないけど、鈴理ちゃんの元カレには気を付けてね」


「え?」真衣の方が動じてしまった。

三女の元カレ。
というのは現在御堂財閥一人娘の彼を指しているのだろうか。

瞠目する真衣に対し、「彼は危険だ」下手すると僕達は彼にしてやられる可能性がある。

楓は眉根を顰めた。面持ちからして冗談では無さそうだ。


「それはどういう意味ですか?」


説明を促すと、「彼自身が危険というより」バックにいる大物が危険なのだと楓は苦言した。

いつもへらへら笑っている彼から苦言交じりの台詞が出るなんて希少である。

事は深刻なようだ。


「御堂淳蔵。財閥界のカリスマと謳われている彼が豊福空くんのバックにいる。
そして豊福くんは鈴理ちゃんの元カレであり、鈴理ちゃんは彼との復縁を切望している。しかも大雅とも仲が良い。二人にとって警戒心を抱くべき相手じゃない」


御堂淳蔵がそこを狙わないわけがないんだ。

なにせ、オッソロシイほど情報通な老人であり、財閥界で恐れられている実力者。

とっくに彼等の関係なんて洗ってあるだろうさ。


―――…復縁狙いの婚約破談すら耳にしているかもしれない。

あのご老人はね、幾度となく“共食い”を成功させている覇者なんだ。

陰でどれほどの手ぐすねを引いているか分かったもんじゃない。


なんでも彼は御堂家に逆らえない立場らしいね。鈴理ちゃんと大雅の話を盗み聞きしたよ。多額の借金があるとか。


「僕は彼自身の人格をよく知らない。
ただ頑張っている鈴理ちゃんの気持ちは尊重したいし、大雅が仲良くしたいと思うなら、これからもうしていけば良いと思う。

玲ちゃんだって僕自身大好きだ。
男だからって一蹴されることは多々だけど、あの子も悪い子じゃない。

……杞憂で終わって欲しいんだけど、あのご老人、また何かをしたいみたいで水面下で複数の企業とやり取りをしているようだ」


「それって」


「もしかしたら二階堂財閥と竹之内財閥をいっぺんに手玉に……、企業分析が終わるまで二人には豊福くんに近付かないよう言うべきかもしれない。それが双方傷付かない策かも。
仮に豊福くんを使ってくるようなら、あの二人が回避できるかどうか」