「僕達兄弟は同じ物を好きになる傾向がある。ただいつも譲ってくれるのは大雅。まるで兄弟が逆転しているみたいだ。僕ってそんなに弟気質なのかな?」

「ご自身の性格に問題があるんですよ。少しはその電波な性格をなおしては如何でしょう? 貴方様のような兄を持つ大雅さんの苦労には心の底から同情しますわ」


「ホンット手厳しいね。真衣ちゃん」引き攣り笑いを浮かべる楓に、「本当のことですから」クスリと真衣が笑みを零した。


店員を呼びつけると、空になったカクテル・グラスを渡しておかわりを頼む。

今度はチェリーカクテルを注文した。

トレイに載ったカクテル・グラスを真衣の前に置くと、店員は一礼して去っていく。

それを脇目にしながら真衣は冷たいグラスに指を絡めた。
 

「大雅さんはご存知なのですか?」


半分ほど飲み干したマティーニを見つめ、「ナニを?」彼が白々しい問いかけをしてくる。分かっているくせに。

「楓さまの夢についてですよ」

馬鹿丁寧に返事すると、

「勿論知るわけないさ」

言ったら危険の一言で止められるだろうからね。

勿論親にすら言ったことはないよ。

僕の野望を知っているのは真衣ちゃんくらいさ。


ぱちっとウィンクしてグラスの中を回す。


「二階堂財閥長男は頼りない優男。財閥を引っ張っていけるかどうかすら危うい。これが周囲の評価さ。そんな男が野望を持っているなんてお笑い種だろ?」

「けれど貴方は揺るぎない野望を持っています。ふふっ、貴方らしい野望です」


保守的な財閥界を内側から崩す、本当に貴方らしい。

伏せた睫を震わせて笑みを零す真衣に、楓は今日一番の微笑みを浮かべた。

「おかげさまで敵も多いよ」

楓は楊枝に刺さっている薄緑色のオリーブを口に入れる。

渋味にしかめっ面を作りながら、「僕と君は似ている」保守的な財閥を嫌う面とか、決められたレールを走りたくないエゴを持つところとか、だから話せたのだと彼はオリーブを咀嚼する。
 

「出来が良ければ財閥の将来を背負い、悪ければ財閥の存続補佐として人生を捧げる。そうして財閥界の歴史は繰り返されてきた。
面白味がないでしょ? そーろそろ財閥界に革命が起きてもいいかな? って思ってさ。僕は人と違うことをするのが好きな性分だから」


「それを変わり者と呼ぶのですよ」