「相変わらず手厳しいね。真衣ちゃん。少しは誼(よし)みとして騙されてくれる優しさはないのかな?」

「私に優しさを求めることが間違っていますから。それで、どうなのでしょう?」
 

別のことをしていたことを薄々察している真衣は、早速話題を切り出した。

「んー。財閥界は腐ってるね」

一にも二にも三、四をすっ飛ばして五にもこれに尽きると楓は溜息をつく。

彼は肘を机上に置き、マティーニに入っているオリーブに目を落とした。
 

「財閥界の頂点近場にいるご老人方は、相手を追い抜け追い越せ蹴落とせの精神で、虎視眈々と他の財閥を“共食い”しようと目論んでいるみたーい」


皆、もーちょっとおてて繋いで仲良くしようとは思わないのかな?

ま、これまではそうやって他の財閥を貪って存続してきた節もあるだろうし、所詮ビジネス社会なんて弱肉強食だから、頭ごなしに否定もできないんだけどさ。

それにしたってやり方が気に食わないなぁ。


「両親世代はまだ実力を見せれば、どうにか納得してもらえるレベルだ。
けどそれ以上の世代は頑固頭のツワモノばかり。いつまでも財閥の頂点に居たがる輩ばかりさ。

そろそろ次世代に譲っても良いだろうに」


いつ僕達は彼等の椅子に腰を据えることができるんだろうね。
 
意味深に一笑を浮かべる楓に、笑みを返し、「敵は多そうですよ」真衣はパッションフルーツカクテルを飲み干した。


「まず今回の敵は自分達の両親なのですから」


真衣が軽く告げると、「ありがとうね」僕の提案に乗ってくれて、と楓が一変していつもの笑顔を作る。

「いいえ」可愛い妹達のためですもの、手を貸さないわけがないと真衣は目尻を下げた。


「鈴理さんの泣き崩れた姿、見たこともありませんでしたから。勿論大雅さんも素敵な男性だと思いますよ。ですが、あの子は」

「大雅だって鈴理ちゃんが不満ってわけじゃないよ。ただ二人は望んでいなかった。彼は別の子が好きだからね」
 

「分かりやすい弟だよ」不在の弟をからかう楓に、「百合子さまですね」真衣はストレートに物申した。

ご名答だと言わんばかりにマティーニに浸っているオリーブを指で小突く。

「大雅は優しいからね」

兄の顔を立たせてくれているんだよ、楓は出来た弟だと苦笑いを零した。