彼は私の早足に合わせるように、歩幅を広げて歩いた。
だけど足を踏み出すペースは変わらず、ゆっくりとしたリズムを刻んでいる。

「えーと、さっきはありがとう。ちゃんとお礼を言いたくて」

歩きながら、彼は軽く頭を下げた。

私もつられて会釈を返す。

「救われたよ。あのままだったら俺、明日は受験どころじゃなかった」

「何があったの?」

前を向いたまま、早足で歩きながら、私は彼に尋ねた。

「……うん……」

「言いたくないなら、無理して言わなくていいけど?」

この言い方、我ながらイヤな感じ。

本当はさっきから彼の泣き顔が頭から離れないっていうのに、私って、なんてかわいげがないんだろう。

「そんなことないよ」

一息入れて、彼は続けた。

「彼女にフラれたんだ。ものすっごく大好きだったんだけどね。もう俺とは無理なんだって」


やっぱり、失恋か。


「原因は?」

「遠距離恋愛に疲れたんだって」

「……そうなんだ」

「あーあ。俺、頑張ったんだけどなぁ……」