人気のない歩道を早足で歩くと、早朝のひんやりとした空気が頬を刺す。

「寒……」

私は肩をすぼめて、更に駅へと急いだ。

だけど、緊張の糸が切れて力の抜けた足をうまく前に運ぶことができなくて、何度も転びそうになった。


灯りが消え、シャッターの下ろされたビルはひっそりと静まりかえっている。
それはまるで、街が再び動き出すその時を息を潜めて待っているようだった。

ふと空を見上げると、ビルの隙間から朝の光。
その光は、ビルや歩道、そして私を優しく照らし出す──。

私は朝の光に明るく照らされた歩道を見つめた。

私が今歩いている、地下鉄へ向かう道。
それはソウと出会った夜に2人で並んで歩いた道でもあった。

出会ったのは『ラーメン うちだ』。

その先にある居酒屋の前は、酔っぱらった学生から私を守ろうとしたソウに、いきなり肩を抱かれた場所で。

そして、地下鉄の入り口手前には、蒼太を思い出した私がソウから逃げるように走り去った横断歩道。


私はクスリと笑った。

あのときは、ソウとの出会いがこんな《ゲーム》になるなんて思いもしなかった……。


横断歩道を渡り、駅への階段を1段1段、力の入らない足を必死に動かしながら下りきったところで、私は立ち止まった。


改札手前の一角。
その場所は、ソウと最初のキスをした場所だった。

──そうだ。
あの時、ソウは私を追いかけてきてくれたんだ──