男兄弟というものは、愛情表現の形が複雑なのだなあと──読書感想文みたいなことを、サヤは思った。
お互いを本気で疎ましく思ったり、嫌ったりしていないのに、ぶつかり合わずにはいられないのだ。
『内緒で精霊を激写しちゃおう作戦』(命名:塚原直樹)中のいま、何度となくそのシーンを見ることができた。
作戦といっても、極秘の行動であまり大掛かりな仕掛けはできない。
なので、直樹が革手袋をはめ、孝輔が小型端末を隠すように持って調査をするという、少々怪しい行動になる。
二人が小突きあう場面も多々あるので、時折店員の注目を浴びている気がした。
本当に極秘で仕事ができるのだろうか。
そもそも、このデパートはとても広い。
あてずっぽうに探しても、その手袋の狭い感知範囲では、見つけることが出来ないかもしれない。
そこで、アテにされたのが──サヤだった。
彼女なら、大体の居場所が分かるだろう、と。
そして。
アテにされて、一番喜んでいるのもサヤだった。
何しろ、兄と暮らしている時は、兄のほうがとても優れた能力者だったために、自分に重要な仕事が回ってくることはなかったのである。
それが、不満だったわけではない。
インドにいる時の彼女は、どちらかというと日常生活を楽しんでいた。
しかし、霊能力者である自分を、捨てていたわけでもない。
あの国では、いたるところに霊を感じることが出来たので、日常を送るだけでも、十分修行になっていた気がする。
ただ、どちらかというと、個人で楽しむ範囲での『趣味の霊能力者』に近かったが。
そんな彼女の力を、誰かに求められる日が来るとは思わなかった。
役に立っているという事実が、嬉しくてしょうがなかったのだ。