「早く、代わりの手袋作れよ! いますぐほれすぐ!」

 ニヤリを見られたのだろう。更に、直樹のイビリが続く。

「予備があんだろ! ちゃんと!」

「あれ固いからヤダ」

 ただ、弟をいびりたいだけで、わがままを炸裂させる眼鏡。

 くそー。

 結局、手袋をまた作らされることになった孝輔は、ニヤリの気分も台無しにされて、作業に入ることになった。

 机の上に部品を沢山転がすと、グレムリンが興味深げに寄ってくる。

 そしてなぜか。

 にこっ。

 サヤも寄ってくる。

「グレちゃん…捕まえてますね」

 そして、びびることなくうごめく手袋を、自分の胸に捕まえるのだ。

 うらやまし…いやいや、何を考えてるんだ、オレ。

 精密ドライバーを指先で回しながら、あわてて頭をよぎったそれを追い払った。

 機械の方に行きたそうな手袋が、サヤの胸でジタバタとしているのが、目の端に入って台無しになる。

「アイアイ」

 だから。

 孝輔は、視線をそらしながらそう言った。

「はい?」

 きょとん、と。

 サヤが返す。

「そいつの…名前」

 名づけ親は――サヤ。

「あ! よろしくね、アイちゃん」

 ぱぁっと、サヤの表情が明るく弾ける。

 一瞬で、何ワットも跳ね上がる明るさだ。

 そらしていた目さえ、ひきつけられる瞬間。

「ヲタクは、すぐ道具に女の名前をつけたがるな!」

 即座に邪魔に入る直樹に、すべて台無しにされるのだ。


 我関せず。


 グレムリンこと、『アイアイ』だけが、サヤの胸から逃れようと、もがいているのだった。

-- 終 --