「はははは、お任せください」

 デパートの責任者らしき相手に向かって、直樹はふんぞりかえって高笑いだ。

 いよいよ、グレムリン退治に乗り出したのである。

 そんな兄の方とは線対称に、孝輔の方は眉間に深い縦ジワを刻み、口をヘの字にむすーっと縛り付けたまま、開ける気配もない。

 自分の計画にケチをつけられた影響が、まだ色濃く残っているようだ。

 デパートの休館日。

 きれいにスペースの空いた商品倉庫の真ん中で、孝輔は機材の準備をしている。

 囮の端末と、自分の端末。

 それから、壁から長く引っ張る延長ケーブル。

 むき出しのコンクリートの床に、そのまま置かれる囮端末。

 延長ケーブルで伸ばした電源が、端末に接続される。

 この辺までは、孝輔の指示のとおりだ。

 そして、今日はサヤにも大きな仕事があった。

 誰よりも、犯人の位置がいち早く分かる彼女が、エサに食いついた瞬間、延長ケーブルを引き抜いて回収しなければならないのである。

 唯一の有線を断ち切って、逃げ場を奪うために。

 どきどきする。

 これまで、動きにスピードを求められたことはなかった。

 霊とのやりとりは、精神世界で行うものだから、物理的な速度は何ら必要がないのだ。

 孝輔は、自分の端末で記録操作しなければならないから、サヤがやるしかなかった。

 一方、本当は手があくはずの直樹は――

「ふむ、立ち位置はここかな」

 あの手袋をギリリとはめ、倉庫中央の囮端末の前に仁王立ち。

 それに、小さく孝輔が舌打ちしたのが聞こえた。

 結局、パフォーマンスをすることを、直樹は譲らなかったのだ。

 あの囮端末は、自動でS値を落とすことができるので、直樹が立っている必要はない。

 しかし、この大捕り物には、デパート関係者も離れて見守るために、どうしても見せ場を作りたかったらしい。

 コンピュータを使っての除霊も、パフォーマンスも、あまりにサヤの知る世界とは違うために、口を挟むことができなかった。

 結局、兄弟喧嘩の末――予定通り、兄の方が勝った、というわけだ。