何だ何だ?
照明が落ちたといっても、一応昼間だ。
店内は薄暗くなっただけで、視界にはそう困りはしない。
しかし、華やかさで売っているデパートが、突然灰色の重苦しい景色に変わったのだ。ギャップがひどすぎた。
「停電?」
手すりに触れたまま、孝輔は顎を巡らせた。
客はざわざわと騒ぎ出していたが、店員たちは意外と驚いている様子はなかった。
「また、なの?」
苦々しい声が、どこからともなく彼の耳に届く。
初めて起きたことではないのか。
サヤは、不思議そうにあちこちを見回している。
孝輔の視線に気づいたのか、視線を戻してきた。
「ここには…いたずらっこがいるみたいですね」
にこにこー。
いや、そこは笑顔になるところじゃないし。
時々、サヤは表情を間違うところがある。
インドにいたせいで、性格がゆっくりになってしまったのか、はたまた元々そういう性格なのかは、分からなかったが。
が。
「いたずらっこ?」
ひっかかった言葉があった。
「はい、いたず……あ」
笑顔が言葉を続けようとした直後、店内には光が戻った。
「うわった!」
エスカレータも、もちろん動き出す。
半端な乗り方をして、手すりにつかまっていた孝輔は──したたか腰を打ち付けるハメとなったのだ。