一方、グレムリンの方はと言えば。

 キャッキャキャッキャと──はしゃいでいるではないか。

 楽しくてしょうがない笑いだ。
 よほど、彼の端末は居心地がいいらしい。

 測定用のソフトは、彼が開発したもの。
 かなり特殊なものだ。

 特殊だからこそ、気に入ったのだろうか。

 グレムリンも見たことのない、オーダーメイドのプログラム。

「S値落したる……」

 グレムリンの笑いが、彼には聞こえているはずがない。

 しかし、ムキになったような孝輔が、更に強く打鍵する。

 S値を落とす、ということは。
 グレムリンの存在を弱め、最後には消す、ということ。

 端末の中で、いきなり彼らは激しい攻防を繰り広げようとしているのだ。

 サヤは、ただ見守るだけしかできなかった。

 こんな現代的な戦いに、古臭い彼女が手出しなど出来るはずがない。

 ボタンと、数字の変化による指先だけの戦い。

「……んなろ!」

 グレムリンの気配が弱まり始めたかと思うと、次の瞬間に完全に消えたのだ。

 え?

 唐突な消失に、サヤは驚いた。

 仕事は、無事完遂できたのだろうか。

「……」

 彼は、無言で端末をしまい始める。

 グレムリンと追いかけっこをした、最初の時みたいな動きだ。

 ただ、今度は。

 サヤの視線を避けるように、顔をそらした。

「逃げられた」

 そして、言うのだ──苦々しく。

 きっとグレムリンは、S値を下げられるということが、どういうことか本能的に分かったのだろう。
 機械に宿る彼らなら、十分ありえる。

 火を恐れる獣のように、一目散に逃げ出したのだ。

「んー」

 サヤを呼びもせず、すたすたと帰り始める孝輔を慌てて追いかけた。

 頭の中は、さっきのグレムリンでいっぱいなのか。

「あいつは、自分でS値はいじれない」

 それは、独り言だったのかもしれない。

 けれども、知識の深い部分に手を差し入れている男の横顔は──サヤにも見ることが出来た。