その反応は──突然だった。

 いる!

 声に出すより先に、サヤはそれに気づく。

 孝輔が行っていた、素早さというものを体感した気分だ。

 唐突に、そこに現れた気がしたのである。

「きた」

 しかし、それは彼も気づいたようだ。

 端末に触れる指が、ぴくっと大きく震えた。

 まさに、そこにいる。

 孝輔の持つ端末の中。

 しかし、何故彼にそれがわかったのだろう。

 今日は直樹の手袋もないし、いつもの端末でもない。
 もちろん、室内測定器のような大掛かりなものもない。

 ひゅっと、孝輔は息をのむや─突然、物凄い勢いでキーボードを叩き始めた。

 片手は端末を抱えているのだから、右手だけで、だ。

「くそっ…」

 誰に向けるとも知れない悪態をつきながら、孝輔は端末を叩き続ける。

 その画面には、一体何が映っているのだろう。

 少し背伸びをして、サヤはディスプレイを覗きこもうとした。

 すると、そこには。

 丸い目の、アレが映っているではないか。

 グレムリン。

 その画像が、不鮮明になったり鮮明になったり、激しく乱れている。

 周波数を合わせそこなったテレビみたいだ。

「測定用ソフトを入れておいた」

 声が平坦になっているのは、キーボードを打つのが忙しいからか。

「こいつ…」

 舌打ち。

「こいつ……自分でR値をいじって、遊んでやがる」

 声は平坦なのに──目だけギラギラ。

 闘争本能がムキ出し、だ。

 平素とは、また違う孝輔がそこにいた。

 いまは端末を通して、いわば自分の土俵で戦っているようなものだ。
 こういった機械は、孝輔のテリトリーである。

 だからこそ、目つきまで変わるのかもしれない。