さっきまでぼんやりしていたのがウソのように、孝輔は動き始めた。

 サヤのほうが、そのスピードについていけずに、ほけーっと見ているしか出来ない。

 彼は、車から携帯端末を持ち込んでいた。

 いつも使う、それじゃない。

 別のものだ。

 機械に詳しくないサヤでも、色が違えば違うものだと分かる。

 孝輔は従業員に何か説明をするや、壁のコンセントを確保した。

 あれ?

 いつもとは違うことだらけだ。

 いつもと違う端末。
 いつもと違う有線状態。

 小型端末なら、普通はバッテリーで使っているのに。

 孝輔は、それを手に持ったまま、スイッチを入れた。

「テストって一体どんなのでしょう?」

 何だか声をひそめなければいけない気がして、サヤは小さな声になっていた。

 彼の横顔は、そのディスプレイに向かったまま。

 起動するや、男の指では打ちにくそうなキーボードを器用に叩く。

「フライフィッシング」

 淀みない指の隙間から、横文字がこぼれおちる。

 フライ?

 フィッシング?

 頭に一瞬、魚の揚げ物が浮かぶ。

 でも、それは完全なる間違いだ。

 釣り?

 孝輔は、グレムリンを魚のように釣り上げようとしているのか。

「さぁ…こい」

 釣り人というより、狩人みたいな目だ。

 最後のキーを一つ強く叩いて、孝輔は唇をなめた。