後ろの席を見た。しゅんはなにやらコツコツとシャープペンを走らせていた。なんだ真面目に授業受けてるんだ。と思っていたらどうも教科書ではないらしい。
赤い本に「和声」と書かれていた。
しゅんは難しそうな顔をして五線譜にだんご(音符)を並べていた。類は友を呼ぶ。そう感じた。こいつの中間も楽しみにしていよう。
追試は仲良く。旅は道連れ。

授業中たまに席と席の間を先生が歩く。僕は素早くマニュアル本を閉まって教科書を出しその場をやり過ごそうとした。しかし先生はぼくの席の前で止まった。一瞬ドキッとした。マニュアル本がばれたか!没収か!どうしよう!

「越前君。君は何の授業を受けているんだ。」

先生の目線に目をやる。今受けている授業は英語。そして僕の机に出ているのは国語。周りはどっと笑いが飛んだ。
先生は呆れてその後は何も言わず教壇に戻った。
とんだ恥をかいてしまった。
僕は耳まで真っ赤になりながら後ろのしゅんを見た。
さっきあった赤い和声と書かれていた本は英語の教科書になっていた。
・・・ずるい。

「君とちがってぼくは冷静沈着なのですよ。」
とまで付け加えられた。悔しい。その一言に尽きた。

こんな所で変な対抗意識や意地を発揮しているんだから重ねて僕は馬鹿なんだと。たまに自分を一歩引いて見てみると思う。しかししゅんともなればやはりこうなってしまう。
しかも普段あまり喋らないくせにたまに開く一言一言がぐさっとくることもある。
10年以上こんなことを続けている。