朝、台所から味噌汁のいい臭いと、まな板の上で何かを刻む音が聞こえてきた。

恐る恐る中を覗くと、真楯がエプロン姿で朝御飯を作っている最中だった。


「あっ、おはようございます。すいません、手伝います」


真楯がご飯をよそってくれいたので、朝子は手伝おうと御茶碗を受け取った。


「おはようございます、朝子様。お気になさらずに…すぐ仕度しますので、座って待っていてください」

「あの…でも」


真楯を見上げながら、何か手伝えないかと立っていると、真楯はにこりと微笑んだ。


「エプロン…似合いませんか?」


今時白いレースのエプロンなんて何処に売っていたのだろうか…

あまりにも、綺麗な顔立ちの真楯には似合い過ぎていて、じっと眺めてしまっていた。


「やっぱり男がエプロンなんて…ダメでしたかね」


白いフリルの端を掴みながら、おもむろに真楯ががっかりした顔をしたので、慌てて朝子は顔を横に振った。


「ち…違うんです…あの…」


言い訳を考えていると、


「すいません。エプロン…母が使っていたものしか残ってなくて…

朝子様がお嫌いなら、何か違う物を…」


真楯がエプロンをはずそうと、腰の紐に手をかけた。



「ち…違う!違うんです!!」


朝子は両手で外そうとした真楯の手を押さえた。

お母様のエプロンを大事に使っていて、素敵だと伝えたいのになかなか良い言葉にできない自分が歯痒く思えた。

「あの…えーっと、レースなのに、あまりにも似合ってて…、可愛い感じだったのでつい見とれちゃって…」


「その…真楯先生に似合ってます。お母様のエプロン…」


顔を真っ赤にしながら朝子は話した。

真楯がそっと朝子の両手を包み込んだ。


「ありがとうございます、朝子様」


胸の奥がカァーッと熱くなっていくのを感じた。




「はよー。お前ら仲良いじゃんかー。もう仲直りしたのかー?」


欠伸を隠そうともせず、大きな伸びをしながら悠里が、台所にやってきた。

ビックリして朝子は、真楯の両手を力強く離してしまった。


「ささ、朝子様も席へどうぞ。冷める前にいただきましょう」


傷付けたかと思ったが、真楯は気にも止めるふうでもなく淡々と残りのおかずをよそっていた。

朝子は、何だか少しだけガッカリしている自分に驚いていた。



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