もっと自分に甘えて、寄りかかって欲しいのだ。

 ずっと思っていた。

 一緒に住んでいる頃も、もっと甘えてくればいいのだと。

 こんなはっきりした言葉ではなかったが、漠然とそう考えていたのだ。

 しかし、あの頃はそれは不可能だった。

 メイの性格もあったが、何よりも彼らの関係に、一文字の名前もついていなかったからだ。

 今は違った。

 メイは、カイトの妻という言葉でコーティングされているのだ。

 どんなに甘えてもいいはずである。

 もっと甘えてくれたら、本当に自分が彼女を幸せにしている実感を掴むことができるのだ。

 しっかりと噛みしめることができるのに。

 それを分からせたい。

 彼女の全身に。

 髪の先にまで、この気持ちを焼き付けたい。

 しかし、やはり――こんなところでは、気持ちのカマドにマキをどんどんくべられるだけで、蒸気機関車を出発させることは出来なかった。

 我慢が頭打ちを始める。

「クソッ!」


 ついに。

 ちぎれ飛んだ。


 カイトは、忌々しい買い物カゴを床にダンと置くなり、メイの腕を掴んでその店を連れ出したのである。

「あっ! 何? 何で? カイト???」

 頭の後ろの方から、驚きと戸惑いの声があがった。

 それをまったく無視して、商品搬入口のようになっている建物の陰に連れ込んだ。

 誰もいなかった。

「…!」

 驚きに固まったままのメイを――抱き竦める。

 彼女に向かって持て余した衝動は、どうあってもこうしないと、おさまらなくなってしまったのだ。

 抱きしめていると、自分の中の暴れ狂う気持ちが、メイの中に吸収されるのではないかと思うくらいに。

「カイ…ト?」

 抱きしめている身体が、ふっと柔らかくなったのが分かった。

 驚きが、はがれたせいか。