鮮魚売場に近づくと、メイがサカナの切り身をじっと見つめる。

 また、どれがいいか悩むのだろうかと思っていたが、今度は我に返るのが早かった。

 ちらっと彼の方を見たかと思うと、慌てて一つのパックを取り、カゴに入れようとしたのだ。

 カイトは。

 カゴをひょいと横に逃がした。そのパックを入れさせないようにする。

 そして、無言でじっと彼女を見た。

「え? え? このおサカナ…嫌い?」

 パックとカイトを見比べて慌てる顔。

 んなんじゃねぇ。

 うまく伝えられる言葉を探そうとした。

 別に、サカナに好き嫌いはない。

 ただ、カイトが一緒にいることで、追い立てられるように選ぶ必要はないのだ。

 いつも、1人で買い物をする時のようにしていればいいのである。

「…ゆっくり…見ろ」

 そっぽ向きながら、その気持ちを短い言葉の中にぎゅうぎゅう詰めにした。

「で、でも…おなかすいてるんじゃ?」

 一瞬、嬉しそうな表情を作りかけたメイは、ぱっと表情を隠すようにその言葉を続けた。

 でも、少し頬が赤くなっている。

 彼の言葉を喜んで、でも、それに甘えてはいけないと自分を押しとどめたのだろう。

 ガツン!

 頭に衝撃が走る。

 また、愛しさの扉が無断で開いたのだ。

 もっと甘えろ!

 扉を、言葉の体当たりで必死で閉ざす。

 耐えられないもどかしさだ。

 衝動が押さえきれない。

 そうなのだ。

 特売品の卵じゃなくて、もっと高い卵を買えばいいのである。

 ほんの何十円かの差だが、それでカイトの甲斐性が決められてしまうような気がするのだ――違う、いまは特売品の卵は、直接的な問題ではない。