脇の方にある建物に車を横付けにしたかと思うと、一人降りて行ってしまった。

 慌てて彼女も追いかける。じっと待っていられなかったのだ。

「あの…カイト…」

 声をかけても、いまのカイトには耳に入っていないようだった。

 ドアを開けて建物の中に入ると、ピタリと足を止める。

「おい!」

 と言われたので、自分を呼ばれたのかと思って、彼女は小走りに近づいた。

 しかし、そうではなかったようだ。

 彼の近くにある、ガラスの小窓が開いて、誰かがそこから顔を覗かせたのだ。

「はいはい…って、ああ、あなたですか」

 職員風の人が、カイトの顔を見ると苦笑した。顔見知りなのだろうか。

 そんな彼の前に、記入を終えた婚姻届を突き出す。

 面食らったようではあったが、相手はそれを受け取った。

「しかし…あなたのように、用紙をもらったその日に提出する人も珍しいですよ。しかも、こんなに早く…あ、おはようございます」

 用紙のシワを伸ばしながら、職員は言葉の途中でメイを見つけたのだ。

 だから、穏やかな笑顔で朝の挨拶をしてくれる。

 慌てて彼女は、ぺこりと頭を下げた。

 そういえば。

 時間外や休日でも、こういうものを受け付けてくれるところがあると、聞いたことがあった。

 どこかの芸能人が、自分たちの決めた日と時間に受け付けてもらいたくて、夜中に入籍したというのだ。

 そういう時間外専用の受付場所なのだろう、ここは。

 カイトは、職員相手に無駄口を叩くこともなかった。イライラしているのが、ハタから見ても分かる。

 一刻でも早く、それを受理して欲しいようだ。

 一刻でもって。

 かぁっとメイは赤くなった。

 そんな翻訳をしてしまった自分が、恥ずかしくなってしまったのである。