「ごめんなさい…」

 彼女が謝ったのが、煮立ったみそ汁のせいだというなら、お門違いだ。

 それは間違いなく、カイトのせいなのだから。

 目の前の、小さなちゃぶ台に乗せられた朝食を見る。

 ごはん、おみそ汁、のり、きんぴらごぼう。

 それが朝ご飯だ。

 まあ、質素と言えばそうなのだが、それよりも目を引くことがあった。

 カイトは、ご飯の茶碗を眺める。

 小さな、花柄の茶碗。

 そして、メイの茶碗を見る――いや、それは茶碗ではなかった、ただの深皿だったのだ。

 他の食器も、かき集めたとしか思えないような不揃いのものばかり。

 きっと、ここに2人分の食器はなかったのだろう。

 この花柄の茶碗も、いつもは彼女が使っているものに違いない。

 だが、それを恥じる必要なんか全然なかった。

 中身の食事は、食器なんかで変わるはずもない。

 それどころか、まるで彼女とわずかしかないものを分け合っているのだという、共有感があった。

 幸せな感触である。

 カイトは無言で、みそ汁の入っているお椀を持ち上げた。

 そのまま、ずっとすする。

 熱い。

 喉に、胸に、胃袋に、それがぱっと広がって染み渡ったのが分かった。

 ああ。

 この味だ。

 どんなに離れていても、カイトの身体はそれを忘れていなかった。

 一時期、毎朝彼女のみそ汁を飲んでいたのだ。

 その知っている味が、伝わってきたのである。

 こんな味を作れる相手は、他にはきっといない。

 間違いなく、メイが自分のところに戻ってきてくれたのだと、また一つ実感の土を踏んだのだ。

「うめぇ…」

 カイトはそう言った。


 彼女を失って以来――ようやく、本当にご飯を食べた気がした。