●172
どうしよう、どうしよう。おかしくないかな。
メイは笑顔を浮かべていながらも、内心では物凄く焦っていた。
一人ハイテンションに、ペラペラしゃべりまくっているのだ。
カイトは、あきれているかもしれない。
疑惑が胸を掠める。
しかし、ぶんぶんとそれを払った。
せっかく、ここまで引っぱり出せた勇気を、台無しにしてしまいそうだったのだ。
勢いをつけるために、おちょこの日本酒に口をつける。
あの甘さが、ぱっと口の中に広がった後、胸が熱くなる。
そうしたら、ますますドキドキしてきた。
お酒の影響もあるだろうが、カイトがすぐそこにいるのだと、いきなり自覚してしまったせいもある。
本物だ。
触れようと思えば、触れることが出来る―― 勿論、そんなことはしなかったが。
あまりに近くなので、彼の体温が伝わってくるのではないかと思った。
実際は、暖房のよく効いた店のおかげで、どんなに神経をパラボラアンテナのように開いても、体温を感じることはできなかったが。
カイトが静かなのには、やはり慣れなかった。
あの事件が起きる前の彼は、いつも気配からして威圧的だったり攻撃的だったり。
怒鳴ることを除いたら、全然しゃべる人ではなかった。
しかし、声にしなくても力強い何かをいつも感じられた。
いまのカイトは、気配すら黙り込んでいる。
それは悲しいことだった。
あの事件が、カイトを変えてしまったのだ。
あんな、ほんの少し時間の使い方を間違っただけで。
「おまちどうさま」
料理が運ばれてくる。それに、はっとした。
「あ、おいしいですよ。食べてください」
カイトに料理を勧める。
一つの皿の上の料理を、割り箸で二つに割る。
ハンバーグを思い出してしまった。
彼と一緒に、半分このハンバーグを食べた記憶だ。
『うめぇ』という言葉が、すごく幸せだった。
カイトは、しばらく戸惑っていたようだが、半分にされた料理に箸をつけた。
口に運ぶ。
『うめぇ』―― はなかった。
どうしよう、どうしよう。おかしくないかな。
メイは笑顔を浮かべていながらも、内心では物凄く焦っていた。
一人ハイテンションに、ペラペラしゃべりまくっているのだ。
カイトは、あきれているかもしれない。
疑惑が胸を掠める。
しかし、ぶんぶんとそれを払った。
せっかく、ここまで引っぱり出せた勇気を、台無しにしてしまいそうだったのだ。
勢いをつけるために、おちょこの日本酒に口をつける。
あの甘さが、ぱっと口の中に広がった後、胸が熱くなる。
そうしたら、ますますドキドキしてきた。
お酒の影響もあるだろうが、カイトがすぐそこにいるのだと、いきなり自覚してしまったせいもある。
本物だ。
触れようと思えば、触れることが出来る―― 勿論、そんなことはしなかったが。
あまりに近くなので、彼の体温が伝わってくるのではないかと思った。
実際は、暖房のよく効いた店のおかげで、どんなに神経をパラボラアンテナのように開いても、体温を感じることはできなかったが。
カイトが静かなのには、やはり慣れなかった。
あの事件が起きる前の彼は、いつも気配からして威圧的だったり攻撃的だったり。
怒鳴ることを除いたら、全然しゃべる人ではなかった。
しかし、声にしなくても力強い何かをいつも感じられた。
いまのカイトは、気配すら黙り込んでいる。
それは悲しいことだった。
あの事件が、カイトを変えてしまったのだ。
あんな、ほんの少し時間の使い方を間違っただけで。
「おまちどうさま」
料理が運ばれてくる。それに、はっとした。
「あ、おいしいですよ。食べてください」
カイトに料理を勧める。
一つの皿の上の料理を、割り箸で二つに割る。
ハンバーグを思い出してしまった。
彼と一緒に、半分このハンバーグを食べた記憶だ。
『うめぇ』という言葉が、すごく幸せだった。
カイトは、しばらく戸惑っていたようだが、半分にされた料理に箸をつけた。
口に運ぶ。
『うめぇ』―― はなかった。