泥棒。

 などという単語を、頭によぎらせる寸前。

 カイトは、その部屋のドアをバタンを開けた。

 ひゅっ。

 唇の隙間から息を吸い込んだ。

 それを、自分がしてしまったことに、カイトは気づかなかった。


 何かが床に―― いたのだ。


 転がっていたのは、金物の鍋。

 別の場所に転がっていたフタを、拾い上げかけた指が止まっている。

 調理場で。

 自分を見ていた。

 相手を見ていた。

 カイトは。

 絶対に、自分が死んでしまったのだと思った。

 ついにその日が来たのだと。

 でなければ。

 そこにいるハズがなかった。


 鍋のフタを拾っている死神は、驚いた茶色の目でカイトを見上げていた。