だから、彼はバイクで会社に行かなければならないと思っていた。
 だが、よく考えたら、昨日自分の車に乗って帰ってきていたのだ。

 こんな厚手のジャンパーは、必要なかったのである。

 少し迷ったが、面倒くさいのでこのまま出かけることにした。

 車の中で脱げばいいだけだ。

 チャリ。

 カイトは、よく冷え切ったカギを掴んだ。

 瞬間。

 ガシャーン、ガラガラ。

 何か金属のものが、変則的に転がった音がした。

 カイトは動きを止める。

 この家にいるのは、自分一人のハズだったのだ。

 もしかしたら、シュウがまだ出かけていないのかもしれない―― 一瞬、そう思いかけたが、違うということが分かった。

 音の方向だ。

 シュウのいるはずのない方向から、音が聞こえたのである。

 猫か、泥棒か。

 それとも、単なる偶然による物理的な落下か。

 カイトは、カギを置いて音の方に歩いた。

 無意識に足早になる。

 小さな金属の音は、続いていた。

 物理的な音の続きではない。

 何かの力によって、それが動かされている音だ。

 だから法則がなくて、変則的な音が生まれるのである。