●161
 パン屋の仕事が終わる。

 慣れたというか、慣れていないというか。
 メイはやっぱり重い足取りで、家路に向かった。

 もう少し慣れたら、きっと楽になるのだろう。

 夕暮れを見ながら、彼女は買い物をどうしようか、と思いながら歩き続けた。

「お?」

 どこからか、そんな声がした。

 しかし、メイはぼんやりと歩き続けた。

 関係のない声だと思ったのだ。

「おい、ちょっと待て…そこの…!」

 その咎めるような声が自分に向いているのに気づいて、ドキンとして彼女は硬直した。

 この街で、知っている人と出会うとは、思ってもいなかったのだ。

 ほんのわずかな人としか、出会っていないのだから。

 しかし、相手が人違いをしているのでなければ、はっきりとメイに向けられた声だった。

 硬直しながらも、目をこらす。

 駆け寄ってくる大きな身体があった。

 あれは。

 誰だろう?

 硬直はしたものの、よく知らない人のようだった。

 まだ分からない。

 この人、だれ…?

 ビクッッッ!

 二度目の硬直が、メイを襲った。