ネクタイが怖いハズなどない。

 ネクタイは、ただの無機物だ。

 首に結ばれるために存在するのであって、他の役割は何もなかった。

 ただ、結びさえすればおさまりがつくというのに。

 エレベーターが止まる。

 地下駐車場についたのだ。

 ドアが開く。

 カイトは一人出ていった。

 シュウは、いまの衝撃で少し乱れた髪をなでつけながら、ネクタイを持ったまま後を追う。

 ネクタイが一体何だと言うのです。

 この先の契約が思いやられて、シュウは眉間に薄い影を浮かべた。

 幸いだったのは―― 契約先がダークネスというところで。

 今回の契約の力関係は、こちらの方が強いというところだった。

 向こうの社長も風変わりで有名だ。
 ネクタイがなくても、おそらく契約は締結できるだろう。

 それは、彼にも分かっていた。

 しかし、こんなことを続けていて、正常な業務に差し障りが出るのは目に見えている。

 普通なら干渉しないところだが、対応策が必要なようだ。

 シュウは、かつてない難題と向き合うハメになったのだった。

 鋼南電気の副社長は、心の病などと闘ったことはないのである。

 難題で当たり前だった。