「いつだったか、歌っていただろ? 何だったかな…『泣いてしまったら お茶にしましょう 寂しい夜も お茶にしましょう』…だったかな?」

 もうウロ覚えだ。

 聞いたのは随分、昔。

 でも、彼女はいろんなことが起きると、必ずお茶を飲んでいる。

 きっとその歌を忘れていないのだ。

「いつだったかって…中学生の時の劇の歌よ」

 よく覚えていたわね。

 ビックリした声だ。

 台所でゴソゴソやっていたソウマは、ひょいと居間の方に顔を出した。

「覚えているさ。あの時の君は、お姫様に仕える侍女の役で、ティーポットとティーカップを持って歌っていただろう?」

 こんな風に。

 ソウマは手に持ったティーポットをそのままに、まるでオペラの真似事みたいに大げさに手を広げて、身体を揺らして見せた。

「もう…ソウマったら」

 それに、妻はクスクスと笑う。

 ソウマも笑顔を浮かべた。

 オロオロした顔よりも、そっちの方が美人だった。

「まあ、あのバカのことはオレに任せて…とりあえずはお茶でもしよう」

 しかし。

 頭の痛い事件であることは、変わりなかった。

 修復できればいいのだが。

 いまのカイトの状況を、本当はかなり想像したくなかった。