「あら?」

 その声に、びっくりして顔を上げると、ハルコが来ていた。

 ずっと考え続けていて、いつの間にか時間だけが過ぎてしまっていたようだ。

 急いで、普通の顔に戻るように命令を出す。
 ハルコに、何事かあったのだと悟られたくなかった。

 話を大きくしたくない。

「カイト君…今日、朝ご飯は食べなかったの?」

 しかし、テーブルの上には、2人分の朝食がしっかり残っているのだ。これは、かなり変な構図である。

「あっ! その、今日はいつもより早く出られて…あっ! よかったら召し上がりません?」

 言い繕いながら、メイは椅子から立ち上がって、わざと忙しそうにバタバタと動き回った。

「私、ご飯は食べてきたのよ…これ以上食べられないことはないのだけれども、また次の検診で怒られたくないわ」

 苦笑されてしまった。

 メイは、ぴたっと動きを止めた。

 この次に、どう動けばいいか分からなくなってしまったのだ。

「でも…あなたはまだみたいね。お茶ならおつき合いしようかしら」

 にっこり微笑むハルコには、あの事件のことは、決して知られてはならなかった。

 カイトの名誉と尊厳に関わる部分なのだから。

「すぐ用意しますね」

 メイは、笑顔を一生懸命浮かべながら、そう心に誓っていた。