「今日はお天気ですし…ちょっとあったかいですね」

 カイトの様子に気づいていない彼女は、箸を持ったまま身体をよじるようにして後ろの窓を見た。

 車で通勤することになった彼には、もう天気など関係ない。

 興味もなかった。

 しかし、たかが天気がちょっとよくて、温度がちょっと高いだけでも、彼女は嬉しそうなのである。

 寒い時は暖房をかけっぱなしにし、暑い時は冷房三昧にする。
 雨の日は、会社以外はうざくて外に出ない。

 というような、非常に現代人らしい生活をしているカイトには、天気に対する風情のある表現はできないのだ。

「ああ…」

 どうでもいいことのハズなのに、カイトはぽろっと返事をしてしまった。

 メイがぱっと彼を見て―― にこっと笑う。

 ドキッとした。

「今日の帰りは、いつも通りです?」

 話の糸口を見つけたのだろうか。

 天気の話題をステップにして、彼女は言葉を続けたのだ。

 今日?

 カイトは首を微かに傾けた。

 わざわざ聞いてくるということは、何かあるのだろうか。

「いつも通りだ…」

 そのハズだった。

 気になってはいるけれども、出来るだけ表に出さないようにする。

 彼女は、それにますますにこっと笑った。

「それじゃあ、今日はお鍋にしていいですか?」

 にこにこにこ。

 今夜の献立が気になっていたに過ぎなかったようだ。

 カイトは、肩すかしをくらった。

 もっと別に何かあるのかと―― どこかが期待していたのである。

 だが、彼はこれに返事をしなければならなかった。

 そして、また言葉に悩むのである。