そんな中、彼女が目を開けた。

 間近に、茶色の目があった。

 そう、間近に。

 この腕が誰を抱いているのか、はっきりと分かる瞬間。

 しかし、自覚するより前に、彼女が慌てて逃げ出した。

 一瞬で、それは過去のものになってしまったのだ。

 触れた感覚も、表情も、何もかも。

 そんなにカイトに触れられるのがイヤなのかと思ったら、表情が曇った。

 つらくなったのだ。

 抱きしめたいと思う衝動が、いままで何度もあった。
 しかし、カイトは最初の一回以外は全部耐えてきたのだ。

 それが正しかったことを思い知らされる。

 事故でさえ、こんな態度をとられてしまうのだ。

 分かっていたこととは言え、カイトのショックは大きかった。

 彼女が、昼ご飯の用意をするような発言をして、ダイニングに逃げたのも分かった。

 そんなに―― イヤだったのだ。

 ふらっ。

 一歩踏み出したら、よろけた。

 カイトは片手を壁について、自分の身体を元に戻す。

「いらねー」

 こんな気持ちを抱えたまま、昼飯なんて食べられるはずもない。

 彼は、部屋へ帰った。

 そのまま、さっきまで転がっていたベッドにうつぶせに倒れ込む。

「クソ…」

 寝た方がマシだ。