ドアの方に向かって歩き出す。

 また会社の方にでも行けばいいのだ。
 今度は、ちゃんとポケットにサイフが入っている。

 車も車検から帰ってきている。

 そこらにかけてある上着をバッと掴んだ。

 先週よりは、少しは進歩した判断と行動だった。

「あっ!」

 その行動は、同時にこの家を出ていくのだと教えていて。

 気づいたメイが、後ろから声をあげる。

 彼の後ろ髪を引っ張って、止めさせるような声だ。

 驚いた―― でも、寂しそうな響き。

 先週のあの涙のことを思い出したのだろうか。

 などと、人の心配をしているヒマはなかった。

 カイトの方が、あの涙を思い出してしまったのだから。

 ぎゅーっと、彼の短い後ろ髪が引っ張られる。

「あら、よかったわね…メイ。クリスマスパーティの許可が出たみたいよ」

 なのに、この空間で一人だけ時の流れが違う人間がいた。

 何だとぉ?

 カイトは、ばっと振り返った。

 とんでもない解釈だったのだ。

 確かに服は買っていいという態度を見せたが、パーティに行くという言葉は、一度だって言ってない。

 しかし。

 はた、とカイトは怒鳴りを止めた。

 頭の中で、フローチャートが出来たのだ。

 メイに、おめかしをしてパーティーに来いとハルコが言った → おめかしをするお金を、カイトが出した → パーティに行っていい

 話の流れ的に、そう取れないこともなかった。

 それどころか。

 ここで行くなと言えば、彼女が綺麗な服とやらを買う理由もなくなるということで。

 必要ないものを、メイが買うはずもない。

 だらだら。

 汗が流れた。

 恐ろしい板挟みにあってしまったのである。

 メイを綺麗に着飾らせるということは、この場合、クリスマスパーティへ行くという許諾をしたことであり、そうなると、自分も行かなければならない。

 勿論、カイトは行きたくない。