カップ?

 カイトは、眉を寄せた。

 いま、ハルコが言及したのである。マグカップについて。

 手に持っているコーヒーのマグカップ。

 どこから出てきたものなのか、彼は知らなかった。
 メイが持ち出して来たということは、調理場にでもあったのだろう。

 それをハルコは、自分がプレゼントしたと言いだしたのだ。

 彼の記憶に、そんな些細でくだらないことは格納されていない。

 大体、何故男が2人の同居に、マグカップをプレゼントしようと思ったのか。

 その思考の流れも理解できなかった。

 お茶もコーヒーも興味がないシュウと、飲めればどうでもいいカイトなのだ。

 このカップを使った記憶すらなかった。

 しかし、マグカップの話題はそこで終わらなかった。
 おしゃべりなハルコは、どっちのカップを誰にあげたかまで言及したのだ。

 カイトの使っているカップは、シュウにあげたもの。

 メイの使っているカップは――

 ぱっと、カイトの中の火がはぜた。

 使った記憶すらないものだというのに、彼の持ち物だというカップを、いまメイが使っていると考えただけで、熱いものが走ったのである。

 その反応が表情に出てしまいそうだった。

 ハルコの目の前なのだ。

「覚えてねぇっつってんだろ! 大体、何年前の話だ!」

 怒鳴る。

 怒鳴れば、顔が反射的に歪むのだ。

 いまの気持ちを、隠さなければならなかった。

 もしも、このマグカップのことでメイが妙なことを考えて、今夜からのお茶の時間がナシになってしまったら。

 そんな不安が、胸を斜めに刺した。