「ほら…お許しが出たわよ」

 カイトは、彼女を睨んだ。

 何てことを言うのか、と。

「許しなんかじゃねぇ」

 メイを、これ以上ビクつかせまいと、カイトは押さえ込んだ声で言った。

 許すとか許さないとかではないのだ。

 彼に許可を取らなければならないようなことではない。

 メイの意思で、食べていいのだから。

 許す、なんて言葉を使ったら―― まるで、主従関係のようだった。

 彼女との間に横たわる言葉の中で、一番大嫌いなものである。

 しかし、言葉が悪かった。

 メイは、更に戸惑ってしまったようだ。

 許しなんかじゃないという言葉を、許さないと勘違いしたのだろうか。

 分かれ!

 これ以上の言葉を、いまハルコがいる目の前でフォローすることは出来なかった。

 だから、誰かがいるのはイヤなのだ。

 メイと2人だけならば、何とか挽回するチャンスを探すことが出来るかもしれない。

 しかし、他の邪魔者一人いるだけで、余計にカイトの口が重くなるのだ。

「いいのよ…食べてオッケーってことなんだから」

 ハルコ一人が、きちんと言葉の意味を把握している。

 それもまた腹が立った。

 これ以上反応すると、頭から湯気が出そうだ。
 カイトは、唇を引き結んで目を閉じた。

 しばらくの沈黙。

 パリパリ。

 ようやく。

 メイが、ケーキに手をつけた音がした。


 深いため息をつきたかったけれども、心の中だけでぐっととどめたのだった。