●118
 朝―― 起きてしまった。

 メイは、枕元の時計を見る。

 自分が目覚ましよりも早く起きたことに気づいて、はぁとため息をついた。

 一応、目覚ましは9時に合わせたのだ。
 しかし、まだ8時40分である。

 ふぅ。

 もう一度ため息をつく。

 何もしてはいけないという日があるというのは、ある意味苦痛だった。

 時間が余り過ぎるのだ。

 ハルコが来てくれるけれども、きっと午後からだろう。
 お茶という表現からすると、そう推測できる。

 カイトはきっと、まだ眠りのフチだ。

 しかし、先週はこっそりいろんなことをして、見事に失敗したのである。

 今度は、あの失敗を繰り返すないように、おとなしくしておこうと思った。

 ただ。

 おとなしくしようと思っても、出来ることがない。

 テレビも、ラジオも、編み物の道具も洋裁の道具も何もなかった。

 ぼんやりと過ごしているしかないのか。

 メイは、とりあえず枕元の電気をつける。

 そう言えば、シュウに本を借りていた。

 あの厚いハードカバーの本たち。

 パラパラとそれぞれを開いてみて、一番文字が大きい本を選ぶ。
 大きいと言っても、気持ちだけの差だが。

『流通システムは、近年小売レベルでの……』

『周知の事実だが、食品の規制緩和が…』

 すぅー。

 メイは、何が周知の事実かも分からないうちに、2ページ目で枕に吸い込まれた。

 はっ!

 飛び起きたのは、止めていなかった目覚ましが鳴った音のせいである。

 ほんの20分、引きずり込まれてしまっていたのだ。

 無意識に、手が本を閉じてしまっていた。