「それでは……あなたがここで強盗に襲われていたとしても、警察には通報しなくてもいい、ということですか?」

 対照的に静かな声が、カイトの穴だらけの理論を引き裂く。

 常識で考えても分かりそうなことだ。

「バカヤロウ…分かってんじゃねーか……その通りだぜ」

 しかし。

 カイトと言う男は、冷静な対応に怯むことなどなかった。

 それどころか、堂々と言い返したのである。
 メチャクチャな理論のまま。

 ふぅ、とノッポの男はため息をつく。

 しょうがない、と言った様子だ。

「分かりました……覚えておきます。では、あと15分したら出ますので、用意をお願いします。今日もネクタイをお願いします」

 納得したワケがない。

 なのに、男はそれだけを言うと、もう何事もなかったかのように、スタスタと部屋を出て行った。

 その背中をカイトは睨んでいる。

 何?

 メイは、いま自分の目の前で繰り広げられた出来事を、呆然と見ていた。

 口を挟む隙間も、意識を挟む隙間もなかったのである。

 ものすごいラリーの応酬だった。

 相手の男はリターンを返すばかりだが、カイトは毎回スマッシュだ。

 とんでもないラリーである。

 目をパチクリさせていると、彼がそんな自分を振り返った。

 慌てて、目をそらす。

 彼を見ると、何故か胸が二回打つのだ。

 その感触を覚えることが恥ずかしかった。

「あ……」

 彼は、何か言おうとしていた。

 メイは身構える。
 心の準備なんか出来ていなかった。

 たとえ、言われる言葉が何であったとしても。

「うー…チクショ…時間がねぇ!」

 しかし、いきなり唸りだしたかと思うと、最後はひどく早口になった。

 そのまま、バタバタと動き出す。

 ガタンとクローゼットを開ける動きがあった。

 音に脅かされて、そっちを見てしまう。

 ガチャガチャっ音をさせながら、スーツやシャツを引き抜き、彼はまたバスルームに逆戻りしていった。