できた!

 そう思った時、ダイニングの方でがたっと音がした。

 え?

 たたたっと駆けていって、ひょいと覗くと―― ワイシャツの袖口のボタンを留めながら、カイトが椅子に座るところだった。

 あっ、とメイは口だけを開けた。

 声は出さなかったので、こうして覗いていることは気づかれなかったようだ。

 ぱっと調理場の方に顔を引っ込めて、一人オロオロした。

 結局。

 あのまま、カイトは起きてしまったのだ。

 二度寝をすると踏んでいたのに、見事予想は外れてしまった。

 急いでおみそ汁をよそう。

 温野菜とスクランブルエッグの皿も一緒にトレイに乗せて、彼女はダイニングへ直行した。

 カイトは、いつものように余り表情豊かではないまま座っているだけだ。

「すみませんでした…」

 朝食を並べながら、彼女は小さな声で言った。

「目が覚めちまっただけだ」

 暗に気にするなと言ってくれているのだろうか。

 翻訳装置は、「?」付きでそんな結果を出してきた。

「いただきます…」

 うまくそれに反応できないまま、朝食が始まる。

 時々、彼の態度を盗み見た。

 怒ってないか。

 朝のことをどう感じているのかを知ろうとしたのだが、いつもと何も変わらないように思える。

「新聞…取ってらっしゃらないんですか?」

 何気ない話題を切り出して、彼のいまの気持ちを探ろうとした。

 いや、それは何となく気になっていることでもあったのだ。

 何か足りないと思ったら、新聞がこの家には来なかった。

 彼女の父親は、何回注意しても食事中の新聞をやめなかったのに。

 その記憶のせいで、違和感となったのだろう。

 カイトは顔を上げる。

「…見てぇのか?」

 こっちが探ろうと思っていたのに、まるで反対だ。

 カイトの目こそ、彼女がどういう気持ちで質問をしてきたのか、探るような色をしていた。

 しかし、見当違いもいいところである。