「あのっ! 今日、すごく寒いので…それで、車で一緒に出勤されたらどうかって思って…だから…その…」

 先手を打って、事情を説明する。

 言いながらも、朝一番から怒鳴られるのではないかとビクビクしていた。

 ふーっと吐かれる息にさえ、メイは身を竦ませた。

「大丈夫だっつってんだろ…」

 今日初めての声。

 それは、寝起きの掠れたものだった。

 とりあえず、朝から怒鳴る気力はないらしい。

 彼女にとっては、大変ありがたい事態だった。

「そうですか…すみません起こしてしまって」

 しかし、睡眠を邪魔したことは確かだ。
 貴重な朝の時間に、不愉快な気分にさせてしまった。

 あと15分も眠られるのにと、考えているに違いない。

「あ、それじゃあ、また来ます…眠っててください!」

 まだ朝食は作りかけだ。

 このままでは、いつもの時間にも障ってしまいそうな気がした。

 メイはぺこっと頭を下げると、部屋を飛び出した。

 ああ、もう。

 よかれと思ったことが、見事に裏目に出てしまった。

 考えれば、お節介にもホドがある。

 けれど、できるだけよりよい一日を送って欲しかったのだ。

 もっとちゃんと、彼のことを知らなければならない。

 カイトは余り多くのことを語らないので、その態度や行動から性格をちゃんと読まなければ、こんな失敗をあと何回してしまうか分からなかった。

 とにかく。

 いまは、朝食を作らなければいけない。

 もう一度、起こしにいくまでに。

 調理場に戻るなり、電子レンジで温野菜を作りながら、ネギを刻んで。

 くるくると、メイは動き回った。