●114
「さむ…」

 朝、起きた時の第一印象がそれだった。

 昨日までも寒かったのだが、今日は一段と冷え込んでいる。

 慌てて着替えて階下に下りる。

 一番最初にやるのは、ダイニングに暖房を入れること。
 でないと、カイトが朝食を取る時までに部屋が暖まらないのだ。

 今日も、バイクなのよね。

 朝食の準備をしながら、メイはそう思った。

 ご飯を食べていってくれるのは嬉しい。

 けれども、その代償としてバイク通勤になっているのだ。それが心配だった。

 先日は雨で、ずぶ濡れになって帰ってきたし。

 今日まで会社に行けば、また休みなのだろう。
 しかし、そういう日に限って、こんなお天気なのだ。

 普通は、余り天気について考えることはなかった。

 確かに会社に行っていた頃は、雨が降らないといいなぁ、寒くないといいなぁ、と思ってはいたものの、いまほど切実な感じはなかった。

 彼は寒いのなんか関係ない、みたいに言っていたが、自分の感覚で考えたら、やっぱり寒くてしょうがないんじゃないかと思うのだ。

 メイが朝食を作る前は、車で出勤だった。

 シュウと同乗していたのだ。

 あれなら、寒いという心配はないだろう。

 しかし、それに乗るためには、いつもよりも、もっと早く起こさなければならなかった。

 どうしよう…。

 さんざん思い悩んだ末、メイはガスを切った。二階へ向かおうとしたのだ。

 いつもよりは15分も早い。

 だから、まだ朝食の準備も完全ではなかった。

 とりあえず、彼の様子を見て決めようと思ったのだ。

 深く眠っているようだったら戻って、いつも通りの時間に起こそうと。起きそうな気配があったら、相談してみようと。

 そっと扉を開けた。

 薄暗い部屋。

 カーテンを閉めているせいだ。

 暖房だけが動いている音がする。
 いつも、かけっぱなしで寝ているようだ。

 足音を忍ばせて近付く。

 彼は、まだベッドの上のカタマリに過ぎなかった。