確か。

 メイはソファの方へと目をやった。

 そこに、この事情を説明できるだろう人がいたことを思い出したのである。

 慌てて視線を投げやったにもかかわらず、ソファはもぬけの空だった。

 う……ウソ。

 信じられない光景に、メイは固まった。

 彼が、いないのだ。

 カイトという男が。

 代わりに、知らない男とこの部屋で二人きりである。
 
しかも、相手は彼女の存在を聞いている様子もないのだ。

 ど、どうしよう。

 パニックを起こしかけたメイだったが、その意識を救ってくれるものがあった。

 床である。

 床に、彼が昨夜脱ぎ捨てただろうシャツが落ちていたのである。

 幻ではなかったのだ。

 カイトは、確かに存在した。

「説明が出来ないのなら、警察を呼びますよ」

 なのに、メイが言葉を出すより前に、男は淡々と言葉を続け始めた。

 眼鏡のズレを手で直しながら。

 そこで、初めて反射が消えて目が見えた。

 切れ長の、暗い藍色の目。

 凄んでいる様子はない。
 ただ、冷静な色だった。

「あの…」

 メイは、その目に圧されて言葉に詰まった。

「警察を呼びましょう」

 にべもなかった。

 彼は、すっと携帯電話を取り出したのである。

 ピッと電子音が鳴って。

 背中が、すっと冷たくなった。

 どうしよう――そう思いかけた時。

 ガチャ。

 ドアが、開いた。