落ち着かない気持ちが焦って、あっという間にコーヒーを飲み干してしまったのである。

 はっと気づいた時には、もうマグカップは空だ。

 それをトレイに戻すと、今度はメイがあわてて自分の分を飲み干すではないか。

 食事の時と違うのは、彼女はここに何の用もなく長居が出来ないことである。

 どう見ても急いで立ち上がるメイを見た時、カイトはふてくされてしまった。

 せっかく向こうからやってきてくれたのに、それを自分の手で台無しにしてしまったのだ。

 そんなに急いで逃げなくてもいいと、言えないカイトは、向けられた背中をじっと見つめてしまった。

 フェイントをかけて振り返ったのに驚いて、ぱっと視線をそらす。

「おやすみなさい…」

 また、慣れない言葉を投げられる。

 ここは、『おやすみ』と返すものなのだと頭では分かっていても、彼の口は動かないのである。

 彼女は行ってしまった。


 それが、昨夜の出来事。